これは読みたい「愛ゆえの反ハルキスト宣言」!!

平山瑞穂氏著「愛ゆえの反ハルキスト宣言」という本を図書館で見つけました。
冒頭だけ読んだのですが、この本に書かれていることがまさに自分とそっくりで膝を叩いて快哉を叫びたくなりました。
そのまま借りて全て読みたかったのですが、涙を呑んで思い留まったのは最新の「騎士団長殺し」までを網羅してネタバレを含んで書かれているためでした。
自分で全部読んでない本を紹介するのは躊躇われるのですが、村上作品を全て読んでいる、またはネタバレを恐れない同じ思いの同士に向けて書きたいと思います。

かつてはアンチであるとは言え村上作品の新刊は必ず(紙の本で)初版本を買っていたのですが、流石に1Q84 Book3で初版本を購入せず(一応後から買いましたけど)、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」からはついに購入自体していないという状態に陥ってしまった自分です。
なおかつ買っていても読了は「海辺のカフカ」で止まっているので、「アフターダーク」から読まなければならないというのは結構辛いものがあります。

この本は自身も作家である平山瑞穂氏が村上春樹の長編作を読み解き、「愛ゆえに」展開する「アンチの立場から書かれた村上春樹論」ということです。
著者は「風の歌を聴け」をきっかけに村上春樹作品を読み始めると同時に文学に目覚め、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」までは敬愛していたのに「ノルウェイの森」からアンチに転向することになったそうです。

これは僕ととてもよく似ています。僕の場合は子供の頃からそこそこ本を読む子だった上に中学2年の終わりに「潮騒」で決定的に三島由紀夫に傾倒したので、村上作品は文学への目覚めではありませんでした。大学生になってから読んだ「風の歌を聴け」で村上春樹を好きになったのは確かですが、新鮮な文体、世界から切り離されて存在するような孤独感と喪失感はとても気に入ったものの、「信奉」と言っても良いくらいの気持ちになったのは「羊をめぐる冒険」からでした。
デビュー作であり、三部作になる最初の作品「風の歌を〜」は見るべきものは多いものの、正直少々肩に力が入りすぎてオーバーアクションになっている点がありましたし、それゆえの荒削りな部分が垣間見えたのも事実です。
それが「1973年のピンボール」でだいぶ肩の力が抜け、「羊をめぐる冒険」に至ると、一気に物語的完成度が比類なく高まると言う三段跳びにも似た飛躍を見せ、それまでの物語の流れとも相まって心揺さぶられるエンディングを迎えました。(できれば「ダンスダンスダンス」は書いて欲しくなかった)

それが「ノルウェイの森」を読んだ時はハッキリ言って「未完成作では?」と思うほど違和感がありました。一応完結しているようですし、その後続きが書かれた訳でもないので未完成作というのはおかしいのでしょうけど、自分としての第一印象はそれでした。
村上作品を形成する際立った特徴は随所に見られるものの、全体としてバカ売れするほど良い作品とは到底思えませんでした。それゆえ感情移入もできませんでした。
まさに平山氏が書かれている通り「むやみに感傷的で、登場人物がやたらと死にまくり、その喪失感ばかりが露骨に強調されている」という点が好きではありませんでした。実際に村上春樹自身でそう言う作品を描こうとしたと言うようなことを述べていたと思いますが、正直それ以外何もないと感じたのです。

僕は全く読まない人(?)に比べたら小説を読む方だとは思いますが、小説のテーマとか作家の思想とか意図とか昔からよく分からないタイプです。どちらかと言うと物語至上主義ですね。面白い物語が好きです。それでも何故かいわゆる純文学が好きですし、単純なエンタメとして読む場合以外は物語だけでなく何かプラスアルファを求めてしまいます。ところが「ノルウェイ〜」で描かれているのは「死とセックス」だけ。
"喪失感"は良いのです。大好物です。というより僕が元々村上作品に期待していたのはこの"喪失感"だとも言えます。そして、この"喪失感"は「風の歌を聴け」三部作で見事に描けたと思います。しかし、読んでからかなり経っていますし、再読もしていないので具体的かつ正確に説明できませんが、「ノルウェイ〜」では"喪失感"が単なる個々の人間の感傷に過ぎず、物語全体で昇華されないまま結局何なの?個人の打ち明け話?と聞き返したくなるような形で終わっていたように思います。
そして、それ以前もかなりお馴染みの特徴ではありましたが、性的な描写とやたら簡単に主人公が女の子と深い仲になるという点はその後の作品でより過剰になり、正直言うと全く理解できない(笑)メタファーとできそうで本当には真似のできないユーモラスな比喩などの持ち味と併せて「ノルウェイ〜」以降村上春樹ブランドは不動の人気を確率した訳です。そして、反比例するかのように僕が好んでいた"喪失感"の部分は次第に失われていきました。
つまり「ノルウェイの森」は一つの分岐点だったと言えるでしょう。

そのため「ノルウェイ〜」からつまづいたのは僕だけではなかったと今回この本の冒頭を読んでホッとしたのですが、上記の点に加えて僕としては「残酷描写」もアンチになったポイントです。「ねじ巻き鳥〜」辺りから妙に残酷な描写に異様に力を入れていたりしますよね。あれは何なのでしょうか?別に暴力を肯定している訳ではないでしょうけど、妙にリアルで救いのない徹底的な描写が増えましたよね。
目次を読む限り平山氏はこの点には触れていないようですが、村上春樹と言えば一般に絶賛か(普通の意味での)アンチばかりで溢れているように思われる中愛憎相食む視点から書かれたこの本はぜひ読みたいところです。
でも、それには早く他の問題を片付けて未読の村上作品を読まねば……(汗)。
全て読了済みの「愛ある」反ハルキストの方はぜひ一読をお勧めします。

(しかし、残念なのは電子書籍がないことですね)

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