ケン・リュウ「紙の動物園」の感想

ケン・リュウのヒューゴー/ネビュラ/世界幻想文学大賞受賞作品を含むSF短編集「紙の動物園」を読みました。
感想を書きたいと思います。

満足度は星5つ中4というところでしょうか。
この作品は例えばジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの「愛はさだめ、さだめは死」のような叙情的なSFが好きな方にお勧めです。

ケン・リュウは両親とともに中国から11歳でアメリカに移り住んだ弁護士やプログラマーとしての顔も持つ多才な作家だということです。アメリカに住みながら中国の出自を持ち、中国のSF作家たちとの交流から非英語圏のジャンル小説に興味も持ったことで独特の作品を生み出しているようです。そのためか、作品には中国モチーフのアイディアが散りばめられていて純粋英語圏の作家と違って作品に異文化の彩りがアクセントとなっています。また、「もののあはれ」などは日本人が主人公です。日本的なものもサイバーパンクの作家のようにメチャクチャな使い方をしておらず、各国の文化をなかなかよく咀嚼した上で使っているように感じました。
全体として純文学の方が向いているのではないかと思うような、人間の感情や人生についてよく書けていると思います。ただ、本格的なSFを好む人には向かないかも知れません。

この短編集は日本独自に編まれたものですが、多数の短編を書いているそうなので、ごく一部を収録したとは言え、普通の短編2冊分くらいのボリュームで15作品が掲載されています。
あらすじはAmazonの説明を読んでいただいた方が早いと思いますが、この中で自分としてはヒューゴー、ネビュラ、世界幻想文学大賞のトリプル・クラウンである「紙の動物園」やヒューゴー賞受賞の「もののあはれ」よりも他の作品の方が面白く読めました。
「紙の動物園」と「もののあはれ」は確かに良い作品だとは思いますが、さほど強いインパクトはありません。異文化的なエッセンスと情感のある内容が評価されたのではないでしょうか。
自分として気に入ったのは「潮汐」。思い切りファンタジーに振り切った感じが好きです。
面白さから言ったら最後に収録された中国古代ファンタジーかと思わせて別なSFジャンルに切り替わるというアクロバティックさが素晴らしい「良い狩りを」が一番でした。作者のルーツとも絡んで生まれたと思える「文字占い師」も途中の悲惨な内容、描写は辛かったですが、感動できる深い作品です。「結縄」はアイディアが秀逸です。
「円弧」や「文字占い師」「良い狩りを」などは映画化しても良いと思われる作品で、この作家の文学性のある作風を象徴していると思いますが、「文字占い師」は内容的に中国で公開できそうもないので無理でしょう。
ただ、長編も書いているようで、この作家の筆力なら充分読むに値するでしょうし、将来的にいずれかの作品が映像化されるかも知れません。

ということで読む価値は充分ある作品だという結論ですが、いくつかの作品の作者付記の中で言及されていたテッド・チャン。ケン・リュウはよほどチャンを尊敬しているようです。自分も映画「メッセージ」の原作を含む「あなたの人生の物語」も読まなければいけないかな、と思いました。

それから余談ですが、ケン・リュウは科学知識を含めてベースとなる知識はずっと上なのでしょうけど、物語それ自体は乙一でも充分に匹敵するのではないかと思いました。乙一氏はもっと上へ行けるような気がしてならないので、頑張って欲しいですね。

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