エミール・ゾラ「ナナ」の感想とその登場人物

ゾラの「居酒屋」を読んだ後居酒屋の主人公の娘の物語だというので「ナナ」の文庫を買ったのですが、家のどこかに埋没してしまい、ずっと行方不明になっていました。そして数年経ってから発掘されましたが、その後またしばらく放って置いた後(笑)、ようやく読了したので、今回は「ナナ」の感想を書きたいと思います。
しかし、この作品は登場人物が非常に多いだけでなく、一遍にほとんどの主要登場人物が出るので、若干混乱しました。そこでWikipediaを頼ろうとしたところ登場人物についてはあまり充実していないばかりか、ちょっと首を傾げるような点もあったので、自分でまとめてみました。
誰もが読んでいる超有名作とは言えないとは思いますが、もしこれから読む方がいたら参考になれば幸いです。

「ナナ」あらすじ
第二帝政下のパリ。貧困の中で育ったナナはボロ靴を引きずって街を彷徨う街の女として育ったが、その美貌を見出されヴァリエテ座の舞台で衝撃的なデビューを飾る。これをきっかけに次々と上流階級の男たちを魅了し、破滅へと導いていく。

登場人物
※以下の日本語表記は平成18年12月20日発行の新潮文庫を底本としています。
記載の順番はどうしようか悩んだのですが、思い切ってナナ以外は男と女で分けてみました。全員のフルネームは分かりませんでしたが、ダグネとミニョンは台詞中で呼びかけられているものを記載しました。

ナナ
大柄で豊満な肉体を持つ金髪の美貌の高級娼婦。舞台「金髪のヴィナス」でセンセーショナルなデビューを飾ってから次々と上流紳士たちを虜にしていく。

▪️男たち
ミュファ・ド・ブゥヴィル伯爵
信仰心篤い母親に厳格に育てられた。皇后宮侍従。四角張ってがっしりした体形。背が高く頬髯を生やした堂々たる美男子。50代?
ジョルジュ・ユゴン
登場時17歳。ナナの初舞台で彼女に一目ぼれする。明るい青い眼のまるで女の子のような顔の縮れた金髪の少年。
グザヴィエ・ド・ヴァンドゥーヴル伯爵
すらりとして大変身だしなみの良い一際上品な紳士。名門の末裔。女性的で才気に富んでいる。
フォシュリー
ラ・ファロワーズの年長の従兄弟で黒いちょび髭を生やした大柄な青年。新聞記者。
シュタイネル
背は小さく早くもお腹の出っ張った灰色の頰髭を一面に生やした丸顔のドイツ系ユダヤ人の銀行家。何度も事業に失敗しながらもその度に新しい事業で持ち直して来た。
(ポール・)ダグネ
女のために金を使い果たして相場に手を出してなんとか小銭を稼いでいる、目が綺麗で感じの良い青年。
ラボルデット
寸分の隙もない身なりをした美しい金髪の丈の高い青年。常に冷静。いつも頼まれごとを喜んでこなす。女に金を貸さないことを信条とし、二度の決闘経験がある。
ド・シュアール侯爵
サビーヌ・ド・ブゥヴィル伯爵夫人の父。元枢密顧問官。髪の毛を突っ立てており、薄くなった白髪が肩の方に垂れている。痩せて長身。
エクトル・ド・ラ・ファロワーズ
学業の仕上げに田舎からパリに出てきた青年で粋人になりたがっている面長の青年(冒頭から登場するので一瞬主役級に思えるが、実はあまり活躍しない)
フィリップ・ユゴン
ジョルジュの兄。ブールジュの守備隊の中尉。とても背が高くがっしりしていて、陽気で少し乱暴。
(オーギュスト・)ミニョン
ローズの夫。妻を利用して男から金を引き出す手腕に長けている。見世物の力業の大男のような角顔。
ボルドナヴ
ヴァリエテ座の支配人。ナナを見出して「金髪のヴィナス」で衝撃のデビューを飾らせた。自分の劇場を「私の淫売屋」と呼ぶ大きな顔の頑丈な男。
ド・フーカルモン
ヴァンドゥーヴルの友人で海軍士官。小柄でどこにでも出入りしている男。人をからかうのが好き。

フォンタン
ヴァリエテ座の俳優。大きな鼻の珍妙な怪物めいた醜い顔の男。一時ナナと同棲する。
プリュリエール
ヴァリエテ座の俳優。二枚目を鼻にかけたうぬぼれ屋。
ボスク
ヴァリエテ座の老俳優。おごりで食事にありつくことしか考えていない酔っ払い。

テオフィル・ヴノー
60恰好の小柄で汚い歯。宗門に関する関する訴訟を専門に扱っていた古い弁護士で財をなして引退している。ミュファを宗教への畏怖によって支配しようとする。
フランシス
ナナの髪結い。礼儀正しくプロに徹した男。
ルイゼ(ルイ)
ナナが16歳の時に産んだ子。虚弱に生まれついている。

▪️女たち
ローズ・ミニョン
ボルドナヴの一座のスター。ライバルとしてのナナを激しく憎むことになる。痩せていて色が黒く、パリの腕白坊主のような愛すべき醜さの持ち主。
ガガ
ルイ・フィリップ王の寵姫だった。白髪になった金髪を黄色に染めた太った婦人。
リュシー・ストゥワール
首の長すぎる、やつれて痩せた顔に唇の厚い醜い小柄な婦人。39歳。イギリス生まれの塗油工の娘。頭は少し足りないが、好人物。肺を患っている。
クラリス・ベスニュス
ある夫人にサン・トーバン・シュール・メールから女中として連れてこられたが、夫が手を付けて捨ててしまった女。
ブランシュ・ド・シヴリー
本名ジャクリーヌ・ボーデュ。アミアンの近くの村の出でバカで嘘つき。32歳。太っちょ。
カロリーヌ・エケ
冷ややかな美しさを備えている(金で買える女の中では一番美人の一人)。ボルドー生まれで役人の娘。25歳。非常に冷静。
タタン・ネネ
気のいい太った金髪娘。20歳になるまではシャンパーニュ地方の寒村で牛の番人をしていた。
シモーヌ・カビローシュ
サン・タントワーヌ郊外の家具商の娘。小学校教員になるための教育を受けた。ピアノも弾ければ英語も話せる。金髪で可愛く、華奢。
ルイズ・ヴィオレーヌ
生粋のパリの娼婦。
マリア・ブロン
生粋のパリの娼婦。痩せて悪童めいた15歳の小娘。
レア・ド・オルン
生粋のパリの娼婦。

サビーヌ伯爵夫人
17歳でミュファ伯爵と結婚。登場時34歳。黒い眼。栗色髪でぽってりした顔立ち。
エステル
ミュファとサビーヌの娘。痩せていてパッとしない。登場時16歳。
ユゴン夫人
サビーヌの母の親しい友達で伯爵家とは家族同様の存在。ジョルジュとフィリップの母。

サタン
ナナの幼馴染で安売春婦。
ゾエ
ナナの小間使い。濃い栗色の髪、面長で口先が犬のようにとがっている。鉛色の顔は傷跡だらけで、平べったい鼻と分厚い唇とたえず動いている黒い眼を持っている。ナナの将来性を見越して、忠実に仕えるが、その上で自分の財産も増やそうと考えている。
ルラ伯母
ナナの伯母。ナナの子ルイゼを預かる。
ラ・トリコン夫人
美人局を商売にしている婦人。
マロワール夫人
ナナの古い友達。どんな帽子でも形を作り変えてつまらないものにしてしまい、常に被っている。
ロベール夫人
栗色髪の二十日鼠のような可愛い顔つきをした立派な婦人。しかし、実際は…

※これで全員ではありませんが、概ね必要と思われる人物は網羅したかと思います。

感想
最初に面白さから言った場合あくまで個人の感想ですが、5点中3.5点と言ったところでしょうか。
夢中になって読むというレベルではないけれど、飽きることなく最後まで読める良い作品でした。
お勧めできる人は近世ヨーロッパの作品が好きな方、三島由紀夫作品のような小説を好む方などでしょうか。

以下はネタバレを含む感想なので、これから読む方で先入観を持ちたくない方は読まないようにお願いします。

さて、ナナは一種典型的なファム・ファタルというか魔性の女と言えると思いますが、大きな特徴として彼女に悪気はないという点が挙げられます。
ナナは男たちが破産しても自分が悪いなどとは微塵も思わないし、むしろそんなことで破滅する男を心から軽蔑しています。彼女に言いよる男たちは最初は自分から彼女に近づく訳ですが、一旦彼女に取り込まれるといわば自然災害にあったかのように何もかも毟り取られます。その猛威は後半へ行くほど激しくなり、物語はむしろそこへ達するまでの彼女の一種の成長、心の動きを描き、いわば擬人化した狂乱ぶりを時代と同調させることを狙ったのではないかと思えます。唐突とも言える結末、そしてナナの変貌も時代の暗喩のように感じられます。

あとがきによると本書は18歳で孤児となった田舎娘アデライード・フークとその末裔を描いた「第二帝政下に置ける一家族の自然的・社会的歴史」という副題が与えられた「ルーゴン=マカール叢書」全20篇20数巻、9千ページ余、執筆25年を費やしたシリーズの9篇目。ナナは第7篇の「居酒屋」の主人公の娘、アデライードから数えるとマカール系の孫娘とのことです。
「居酒屋」とは大きく趣を変えて上流階級の腐敗した男女関係を描いているのですが、この爛熟ぶりからは確かに第二帝政という時代をよく知らない自分にも時代の雰囲気はよく感じられるので、ゾラの意図は達成されたのではないかと思います。
第二帝政という「時代」を描こうとする点や、結末の描写など個人的には例えば「鏡子の家」などの三島由紀夫作品を連想させました。
三島ファンとしてはあまり好ましくない言い回しですが、人工的な物語構築の手法が感じられるとも言えますが、大きく破綻のない構造と筆力は充分に読む価値はありました。

若干の不満点としてはナナの映し鏡としてのサビーヌ伯爵夫人の描写がもう少し欲しかったような気がします。
個性的な登場人物の多い本作品ですが、上流階級を憎んだままブレないサタンや、ほとんどの男性登場人物がナナと関係する中で近い関係でありながら、ミニョンと共に例外である(多分)ラボルデットの、あまりにも冷静で食えない男であるところが結構気に入りました。
それから卑近な感想としては、訳の問題ですが、厳密な年齢の言及はないとは言え、さほど年配であるとも思えぬヴァンドゥーヴルやラボルデットの一人称が「わし」であるのが気になったことと、本作品に限らず、この時代ふくよかな女性がもてはやされたとはいえ、「太っちょ」というのはどの程度太っていることを指すのでしょうか。アンナ・カレーニナでもアンナが「でっぷり太った」と表現されていたので、なんだか気になります。(笑)
それから大きくネタバレになるかも知れませんが、Wikipediaの本書の項目の登場人物欄にはナナの母が登場するかのごとくリストアップされていますが、訳出の際にカットされたのでなければ回想として言及される以外は一切登場しません。居酒屋の一種の続編ということに加えてWikipediaのこのいわばミスリードが今回私に登場人物をリストアップさせた動機になったのでした。

以上です。

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