珍夜特急と深夜特急

一時期Kindle Unlimitedに入っていたのですが、あまり面白い本もないのでやめようと思った時に何度もAmazonにレコメンドされていて気になっていた「珍夜特急」をギリギリで一気読みしました。

「珍夜特急」はふとバイクでインドのカルカッタからポルトガルのロカ岬までを旅することを思い立った大学生の青年が綴った旅行記です。
続編のSeason2もあり、かなり長い読み物だったのでUnlimitedをやめる前に決断した後でUnlimited終了期限までに読み切るのは非常に厳しかったです。
そんな超斜め読みに近い速度で読んだ本ですが、率直に言って面白かったですよ。
元々プロの作家ではない人の文章なので、その文章にはかなりツッコミどころが多いのですが、ほぼノンフィクション(ほぼというのは旅行記に仕上げるまでに多数の年月がかかったので記憶に頼っている部分があるためでしょう)で、プロの作家※でない分素直に書かれていて好感が持てました。

僕が小説に求めるものの一つは「別世界への旅立ち」的なものです。そのため、自分が生きる現代の東京が舞台となっているものへの興味は時間、空間、文化がかけ離れた舞台のものと比べて薄いです。
とはいえ、時代物やファンタジーはあまり好きではないという若干整合性がないと言われそうなところはありますが、主に中世、近世ヨーロッパを舞台にしたものや、SF、主人公たちが見知らぬ場所へ旅をする話が好きです。
その意味でこの冒険に溢れた物語には充分満足できました。

猛烈なアルバイトで資金を貯め、その限られた予算で目的地に達して日本へ帰ってくる。しかも、バイクに関しても街乗り中心のライダーで修理の方法も知らないところからのスタートです。本当に若い頃にしかできないとは言え、かなりの無茶ですよねえ。
しかし、その無茶から生まれた思い出は彼の中でかけがえのないものになったのは間違いないでしょう。
自らをインドア派の出不精のように表現するこの主人公ですが、全く真反対としか思えない社交性と驚異の順応力(特にインドでのトイレット事情におけるソレ)、そしてボディランゲージだけでない語学力の飛躍的な向上を果たすポテンシャルは目を瞠ります。

最初に日本語的には問題があると書きましたが、事実をそのままダラダラと書いただけではなく、構成や取捨選択は比較的しっかりと考えられているのではないかと感じました。それゆえ出会いと別れの悲哀や旅することで得られる体験について感動とまではいかなくても心の琴線に触れるような部分は充分描けているのではないでしょうか。
Season1はどちらかというと旅で出会った人々との交友が中心でしたが、Season2は奇跡的な出会いやまさに「ザ・冒険」と言えるようなハプニング(特にバイクがらみの)の連続。情報収集が欠かせない途上国から都市部の多いヨーロッパを走るSeason1と無人の場所を走ることが多かったアメリカ大陸縦断のSeason2ではかなり旅の性格は異なりますが、どちらも読み応えがありました。
こんな旅は自分には縁がないと思っても、充分一緒に旅したかのような喜びが得られるのでとてもお薦めです。
一定期間Kindle Unlimitedに登録して全巻読破すると良いでしょう。

そして、この作者はタイトルの元ネタである「深夜特急」を元々知らなかったそうで、後付けでもじったタイトルをつけたそうですが、はっきり言いましょう。元ネタよりもずっと面白いです。
「深夜特急」は若者の旅のバイブルになっているようですが、僕にはさっぱり面白さが分かりません。
本当はこの後ものすごく過激な批判を一度は書きましたが、あまりにもひどいので少し薄めて書きます。
僕には「深夜特急」は主人公がただダラダラと過ごし、なんら事件らしい事件も起こらないスカスカなものに感じました。
もちろん、その方がより事実に近いのでしょうけど、そうなると驚くような出来事がないただ平板な旅行での自分の感想を体裁の良い文章でただ綴っているだけにしか思えません。哲学的な意味なども全く感じられませんでした。
さらに僕がこの本をただつまらないだけの読み物ではなく嫌いな本ナンバーワンと分類するようになった理由ーーそれは終盤に近いところで、ある通りすがりの人物と接触した直後「ここから何か始まるのではないかと思ったが何も起こらなかった」と主人公が独白するくだりがあったことです。ここで僕の中でカチンと何かが音を立てて割れました。『いや、今までも何も起こってないじゃん』

普通ならここで読書放棄するところですが、あと少しで読み終わるのにさすがにもったいない。最後で素晴らしい感動が待っているかも知れない、そう思って頑張って最後まで読みました。しかし、最後は読者の予想を大きく裏切るというか大きく下回る、あまりにもヒドいオチでした。
「ヒドいオチ」と書くと逆に期待感を持ってしまう人がいるといけないので念のため言っておくと、「ヒドい」のレベルが「小学生が考えつくオチ」程度のものなので、決して決して期待しないでください。
世間から絶賛されているけれど、自分から見たらまったく無価値なモノというのがこの世には往々にしてありますが、これは間違いなくそのうちの一つだと思っています。

それから主人公も「珍夜特急」がインドア派の出不精のように自分のことを書くけれど、実際人好きがする人間的に豊かな人物だと思えるのに対して、「深夜特急」の主人公は最後まで好きになれなかったですねえ。言ってしまえば意識高い系(この時代はそういう言葉はなかったが)の高尚な人物であると自分を思いこんでいるようだし、作品全体から漂う陰険そうな雰囲気だけでなく、途中で明らかにクズな行動をしてますからね。
おっと、もうこれでも充分に過激に批判してしまったかも知れません。これでもかなり薄めたつもりですが(笑)。
まあ、僕はこの作品をもう冒険とは縁遠くなってきた歳になってから読んだのですが、もし血気盛んな年頃に読んでいても絶対にハマらなかったとは断言できないので、これくらいにしておきましょう。

なお、小説に影響されて海外へ旅に出るということについては否定しません。大いに奨励したいくらいです。
でも、読むのであったら古いし、フィクションですが五木寛之の「青年は荒野をめざす」の方がまだずっと良いと思いますね。

 

※その後フィクションらしい内容を新たにKindleで出しているようなので、一応プロになったのでしょうか?

スポンサーリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です