コーマック・マッカーシー「ザ・ロード」の感想

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「バーナード嬢、曰く」で紹介されていた表題の作品を読んでみました。

あらすじは、崩壊した世界でより暖かい南を目指して父と幼い息子が果てしなく旅を続ける。ただそれだけの物語です。
しかし、淡々とした描写でありながら圧倒的な文章力と飽きさせないタイミングでのイベント挿入によって最後まで読者を引っ張ります。
絶望的な、親子以外には敵しかいないと言って良い世界で父が生き抜く理由、それはこの物語の主題そのものです。この作品は著者の息子に捧げられているのですが、そのことに注意して読めば、より一層味わい深く読めると思います。
ストーリーがシンプルなだけではなく、特殊な状況下で登場人物も制限され、会話もギリギリまで切り詰められているため、親子の心情は一層際立ちます。少年が父の言葉に繰り返す「分かった」という言葉は極限状況の中でわがままを言えない切なさを感じさせ、父はひたすら息子を守ることだけを考えて、それが純粋な子供の気持ちに反することでも非情になって言い聞かせます。
マッカーシーが我が子を思う心がヒシヒシと伝わってくる名作でした。そして、それは生物が自らの次の世代へ感じる憧憬と期待がない交ぜになった気持ちそのものであることを死に絶えようとする世界を舞台に選んで伝えようとしたのではないかと思います。
息子を持つ父親の方なら感動必至の作品です。
しかし、きっと感動した父親が奥さんや息子さんに布教しようとしても、期待した共感を得られずガッカリするかも知れません。(笑)
それだけ外見的には割り切った対象へ向けた表現方法になっています。

表現手法は異なりますが、僕はこの作品にシオドア・スタージョンの「不思議のひと触れ」に収められた短編「雷と薔薇」(雷鳴と薔薇)と共通するものを見出しました。

本作でも、崩壊した世界として核戦争によって死滅しつつある世界が描かれ、最後に主人公ピートが選択する行動もザ・ロードでの父と同じ方向性にあると思うのです。親子の情とは違いますが、スター・アンシムの切ないまでに気高い愛もまた次の世代への期待に満ちています。
一見大きく異なる作品であり、スタージョンでなければ描かないような内容でもありますが、僕が最も愛するこの作品も必読です。

そして、同じピュリツァー賞受賞作つながりということであれば、こちらもお薦め。

スティーブン・ミルハウザー「マーティン・ドレスラーの夢」は葉巻売りからホテルの経営者にまで登りつめる一人の青年のお話ですが、どんな世界であれ一種の幻想空間にしてしまうというミルハウザーマジックによって彩られた成功と挫折の物語。
「ザ・ロード」とは全く異なる作品ですが、偏執狂的とさえ言えるディテールの書き込みから独自の世界を構築するミルハウザーの傑作のひとつとして是非ともお薦めしたい一作です。

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